おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学歯学部附属病院 小児歯科


はるか2億3000万年前から6500万年前まで,
恐竜が地球上を謳歌していた時代があった。
それはヒトに比べ遙かに長い歴史を持っている。
恐竜の存在は,我々をいにしえの世界に誘ってくれる。
ところでさまざまな種類の恐竜達は,何を食べていたのであろうか?

▲恐竜の存在は
我々を太古の世界に
いざなってくれる

肉食と草食恐竜の最も簡単な見分け方,それは“歯”である。
肉食恐竜の鋭く尖った歯,それは闘争の武器であると同時に
肉を食いちぎり骨までかみ砕いていた。
一方草食恐竜は,目の粗いヤスリ状の歯によって
固い植物く茎や葉をすりつぶして食べていた。

▲肉食恐竜の頭蓋骨と歯

さて恐竜についての研究は比較的新しい。
最初に発見された恐竜の体の部位は,どこかご存知か?
1822年,イギリスにマンテルと呼ばれる医者がいた。
往診の途中で,道路工事のために積まれた土の中に
一つの黒光りする石を発見した。
それは見たこともない歯の化石であった。
いったいどんな動物のものだろう。
当時は,世界に冠たる大英帝国の時代,世界中の
“知”が結集されていた。
しかし世界最高の科学力を持っていても,
これは何の歯であるかわからなかった。
サカナでもない,動物のサイでもない


▲世界で最初に見つかった
歯の化石
当初は,何の動物の歯か
わからなかった。

ある日,南米のイグアナの研究家,スタッチベリィーがこれを見て,
爬虫類のイグアナの歯そっくりであることを指摘した。
そこでこの歯の持ち主の恐竜を“イグアノドン”と名づけた。
イグアノドンとは,“イグアナの歯”(odont=歯)を意味している。
この歯がきっかけとなって,多くの恐竜が次々と発見された。
世界の恐竜の研究は,このたった1本の歯から始まったのである。

ところで歯が最初に発見されたのは,恐竜ばかりでない。
ジャワ原人,北京原人も歯の発見が契機となっている。
現在,知られている人類の最古の直系の祖先である
“ラミダス猿人”(440万年前)も同様だ。
歯が発見された付近を捜すと骨の化石が見つかるのだ。

▲発見された歯がトカゲの仲間の
イグアナの歯そっくりだったので
イグアノドンと名づけられた。




さてそれでは,どうして歯が最初に発見されやすいのだろう。
歯の表面を覆っているエナメル質は体中でもっとも硬い。
だから化石として残りやすいのだ。
でも化石として残るためには,条件がある。
当たり前のことではあるが,むし歯がないことだ。
さて小・中学校に通っていた頃を思い出していただきたい。
歯の検診で毎年のようにむし歯を指摘された同級生がいたと思う。
ところが成人してからは,どうだろうか?
以前の様に,短期間に多くの歯がむし歯になることはない。

▲どうして恐竜の歯は,
化石として残りやすいのだろう?


どうしてだろう?
実は歯は,はえた直後にむし歯になりやすい。
はえたての歯は,目で見たら硬そうに見える。
しかし完全に硬くなってはえてくるわけではない。
たとえば流したてのコンクリートがあったとしよう。
目で見た限りでは,軟らかいか硬いかはわからない。
しかし足で踏むと,穴があいてしまう。
歯もこれと同じ軟らかいのだ。
歯が硬くなるのは3年かかる。
逆に考えれば,はえてから3年むし歯にしないと,
以後にむし歯で悩まされる確率は減ってくる。
むし歯予防は,歯のはえた直後が勝負なのだ。

▲生えたての歯は,
タケノコのように軟らかく
むし歯になりやすい。