おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学 医学部・歯学部付属病院 小児歯科







 今年は,トリノ冬季オリンピックの年なので,某スキーの有名ジャンプ選手の話題を一つ。
某選手は,ジャンプでまっすぐに飛ぼうとするのですが,どうしても少し横に曲がってしまう。
これでは飛距離が伸びない。
左右の筋肉のバランスが悪く,弱い方の筋力トレーニングをしたのですが思ったような結果が出ない。
そこで,ある歯科医に診てもらいその理由がわかった。
さて,どうしてだろうか?

1:むし歯が痛い
2:歯の噛み合わせが悪い
3:歯周病で歯がグラグラする


実は,歯の噛み合わせに問題があった。
そもそも人間の骨は左右対称にできている。
ところが噛み合わせに問題があると,顎の骨がズレてバランスが悪くなる。
これが横に曲がる原因だった。 某選手のオリンピック壮行会の写真を見ると、あきらかに噛みあわせを治していた。
しかし残念ながら、失格に終わった。
次のオリンピックでは,噛みあわせを治したから・・・と言ってもらいたい。

 そう言えば、日本唯一の金メダリスト荒川選手は、きれいな歯をしていた。
 フィギュアスケートは、スピードの強弱のみならず高度のバランス能力も必要  とされる。
きっと噛み合せも大きく関係しているのだろう。

 ここで,ちょっと実験をしてみよう。
目を閉じ1分間同じ場所で足踏みをする。
そして,目を開けると,まったく違う場所に立ってい方もいるだろう。
いつの間にか体が回転して,大きく右や左に向いてしまう。
多少,前に進むのは正常だ。
次にハガキを折って左右の歯で軽く噛み,足踏みをしてみる。
体があまり回転しないことがわかる。
顎が正確な位置に戻り,左右の差が小さくなったのだ。



もう一つ,実験をしてみよう。 
まず目を閉じて,ジーッと立っと体が揺れる。 
目を閉じることで,バランス能力が低下することがわかる。 
次に目を閉じたまま,つま先立ちをしてみる。 
そうすると,無意識に軽く歯を当てている。 
そう!歯は体のバランス能力にまで影響を与えているのだ。 
  さて,赤ちゃんは,ハイハイをする。これは四足歩行である。 
その後,つかまり立ちをする。 これは三足歩行である。 
そして,二本足で歩く。 
ところが,年齢とともにバランス能力が低下する。 
杖を突いて歩くのは,三足歩行である。 
そして,四足歩行の寝たきりになってしまう。 
 
 ところで歯がないと,人ごみの中を歩きにくいように思う。
急に立ち止ったり,方向転換しなければならない。
もし,誰かにぶつかったら,倒れてるかもしれない。
このように思うと,街に出かけにくくなる。
生活範囲が狭まり寝たきりの,第一歩となる。
でも歯があれば,上下の歯を軽く当て,バランスをとることがでる。
そう!!入れ歯は,杖の代わりとなる。
“転ばぬ先の杖”ではなく,“転ばぬ先の入れ歯”なのだ。