おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学病院 小児歯科





「一口30回噛む」のルーツは
グラッドストン元首相にあった
  「一口30回噛む」という言葉がある。
さてこの言葉。
誰が言い出したのだろうか?
常々、そんな疑問を持っていた。
最近、やっと突き止めることが出来た。

それはイギリスで4期に渡り首相を務めた
ウイリアム・グラッドストン氏(1809-1898)である。
ある日、一人の新聞記者が首相官邸で質問をした。
「85歳にもかかわらず、どうしてお元気なのですか?」
その答え。

「天は、私たちに32本の歯を与えたから、
いつも32回噛むようにしている。
これを子ども達にも言い聞かせ、守らせるようにしている。」

ルーツは一口30回ではなく、32回から始まったのだ。



ホーレス・フレッチャー氏
噛む健康法の実践者である。




フレッチャーイズム
どのようにして60歳で若くなりえたのか?
  さてこの話を聞いたのがアメリカの大富豪ホーレス・フレッチャー氏。
そう! かの有名な噛む健康法“フレッチャーイズム”の実践者である。

フレッチャーは、40歳で171cm 体重は100kg近くあった。
体調がすぐれないので、生命保険の契約を断られた。
そこでイギリスに渡り、名医を受診したり有名な栄養学者にも学んだが、
納得する結果を得ることはできなかった。
その時、グラッドストンの話を偶然耳にした。



60歳の誕生日。
若いスポーツ選手と
一緒のフレッチャー氏。 
中央で肩に青年を乗せている。
  そこで、“本当に空腹感の湧いた時だけ食べる事。”
“新鮮なものをシンプルに調理して食べる事。”
“ゆっくり味わいながらよく噛んで食べる事。”などを実践したのである。

おかげで彼は体調が良くなることを、身をもって感じた
これをきっかけとして世界中で“噛む健康法”を説いて廻った。
彼の粘り強い実践は、イギリスやアメリカの名門大学の生理学者、栄養学者、
さらには運動学者の心を動かし、世界的な評価を得るに至った。


  この本が日本語訳されたのが1940年。
現在、“フレッチャーさんの『噛む健康法』”
というタイトルで出版されている。
生活習慣病の予防のために
“フレッチャーイズム”に学ぶことはたくさんありそうだ。


“フレッチャーさんの
『噛む健康法』”




<参考:フレッチャーさんの『噛む健康法』 市来英雄著 医歯薬出版株式会社>