おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学歯学部附属病院 小児歯科




最近,口を”ポカ〜ン”と開け口呼吸している若者が目立つ。
アレルギー性鼻炎のため,やむなく口呼吸となったり,
               完治しても癖になっている場合もある。
また,軟らかい食物が増加したため,口をしっかり閉じることが少なくなり, 口唇の力が弱くなっていることも原因の一つと考えられる。


▲常に口を”ポカ〜ン”と開けている
若者が増えてきた。
これは歯科的にも口呼吸性歯肉炎の原因となる。
特に,前歯の歯肉が硬く脹れる歯肉炎で,歯磨きをしても治らない。

口唇を閉じる訓練により,口唇の力をつけることが必要となる。
ところで,ある小学校で調査したら,
    口唇の力の弱い児童ほど風邪をひきやすい傾向にあった。
  でもどうして,口を開けている児童は,風邪をひきやすいのだろう?


▲口呼吸性歯肉炎
直接,外気に当たるので
歯肉が硬く腫れている。
そう言えば,今年も間もなく風邪の季節が訪れる。
歯科医が罹ると,診療にならないばかりでなく,
         患者さんにも感染させ迷惑をかけてしまう。

さて,風邪の予防といえば,マスクがあげられる。
ところでマスクの網の目を,トンネルの大きさにたとえると,
代表的な風邪のウイルスであるインフルエンザ・ウイルスは,
                       どのくらいの大きさになるだろう?

実は,アリの大きさにも満たないのだ。
ならばマスクは,本当に予防効果があるのだろうか?


▲マスクの網をトンネルにたとえると
ウイルスの大きさは,どの位だろう?
ところでモンゴルの冬は,零下40度まで達する寒さである。
なんと!凍ったバナナで釘を打つことができるのだ。
ところが,この冷たい空気を鼻から吸っても,
    喉の奥では体温付近まで上昇するという。

わずか10cmで,60度以上も空気温が上昇する理由。
それは鼻の中の毛細血管により加温されるためだ。


▲零下40度では凍ったバナナで
釘を打つことができる。
ところで鼻の毛細血管には,もう一つの働きがある。
それは乾燥した空気に湿気を加えることだ。
驚くなかれ,ヒトの鼻では1日約1リットルの水分が出ているという。

そもそも肺で酸素を取り入れ,二酸化炭素を排出する呼吸は,湿度100%の状態で行われる。
これは,魚が水中でエラ呼吸をしていることを考えれば理解しやすい。
肺は,エラが体の中深く入ったものである。
だから肺は,乾燥に弱い。肺炎になると加湿器を入れるのもこのためだ。
▲鼻の中には多くの毛細血管があり
空気に湿度を与えている。


加湿するメリットは,他にもある。
インフルエンザウイルスは,湿気に弱い。
乾燥した冬に流行するのもこのためだ。

さてウイルスは,気温が20℃で湿度30%の状態において,
6時間後では約半分のウイルスが生きている。
しかし,湿度が60%まで上昇すると95%まで死んでしまう。
如何に,ウイルスが湿気に弱いかが,よくわかる。

▲インフルエンザウイルスは,湿気に弱い。

このことからマスクは,吐く息の水分が繊維に付くことで,
インフルエンザウイルスの体内への進入を防いでいることがわかる。
ヒトは,マスクの代わりになるものを体に備えて入る。
それは,鼻で呼吸することだ。
             そう!鼻は天然の加湿器なのだ。
一方,直接,口から空気が入ると体の防御機構が働かない。
だから風邪を引きやすい。
ヒトの体の中には,隠された予防機能が備わっているのだ。



▲体には,隠された予防機能が多くある。