おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学歯学部 小児歯科





▲中国やモンゴルでは
羊の肉は高級品である。
  今年は,ヒツジ(羊)年なので,羊の話題を一つ。
"羊"と言えば,モンゴル行きの飛行機に搭乗した瞬間から,肉のにおいが鼻につく。
日本人には,羊の肉が苦手な方が多い。
しかし,中国やモンゴルでは,牛の肉より高級品である。
"羊頭狗肉"(ヒツジを掲げて,イヌの肉を売る)と書いても"牛頭狗肉"と書くことはない。
羊の肉の脂身が,寒冷地のエネルギー源として重宝されるのだろう。
羊の肉は,健康に良いとも言われる。
そのため"羊"の付く漢字には,良い意味で使われている。
例えば"美"は"羊が大きい"と書く。
よく肥えて大きな羊は,美しいのだ。
栄養の"養"は"羊を食らう","大きな羊を持つこと"が"幸"につながる。
さらに"魚"が付くと"鮮やか"となり,"羊の徳を我身に備える"事で"義"と変化する。
その他,"善"や"祥",それに"達"の字にも"羊"が含まれている。
そう言えば"羊羹"(ようかん)の字は,羊のスープを意味している。
羊の血液を含むスープが,羊羹と同系色であったのだろう・・。
さて,これらの字が使用される理由として羊は,他の動物と争わず,
一団となり生活する平和の使者とも言えるからだ。



⇒羊の字は,顔を表す象形文字であり,
角を持つことがわかる




▲角を持つ動物には牙がなく,
牙を持つ動物には角がない
 ところで,"羊"の文字は,顔を表す象形文字である。
やや面長な顔に二本の角があることが想像できる。
通常,動物にとって角は闘争用の武器であり,種のシンボルである。
しかし,羊の角は,丸くなり,どれだけ役立っているか疑わしい。
余談ではあるが,羊は草食動物でも偶蹄類(蹄が偶数)に分類され,反芻動物*である。
そんな反芻動物には,上顎の前歯や犬歯が存在しない。
面白いことに,犬歯がない動物は角があり,犬歯がある動物には角がないのだ。


▲「きばのあるヒツジ」
もし羊が牙を持てば・・
 さて,「きばのあるヒツジ」**と言う一冊の本がある。
もし羊が,肉食動物の牙を持てばどうなるであろうか?
そうすると,オオカミなどの外敵に襲われることはない。
一見,平和な世界になると思う・・。
ところがだ・・。
他の羊も牙を持ちたがる。
一方,牙が邪魔で草が食べられない。
さらに,他の動物がおいしそうに見えてくる。
そう!これこそ,戦争の始まりなのだ。
羊に牙と言う武器は,必要ない。
この本,どこかの国の指導者様に,お勧めの一冊である。
やはり羊に牙は,似合わない。


 2003年元旦


 
▲羊に牙は似合わない
注:写真は,牙のあるジャコウジカ



 (*一度食べ,胃に飲み込んだものを,再度口に戻して噛む)
(**さめとうあきら著 サンリード社 980円)