おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学病院 小児歯科





モンゴルといえば,
大草原を思い浮かべる

  モンゴルといえば,果てしなく広がる大草原が頭をよぎる。
面積は日本の約4倍、80%が大草原の国である。
現在の人口は260万人。
そのうち約30%が遊牧民で,移動式のテントに住んでいる。
遊牧民は,豊富な草を利用し五畜(ごちく)といわれる
“ウマ”,“ウシ”,“ヒツジ”,“ヤギ”,“ラクダ”を飼って生活する。
夏は,白いたべものである乳製品,冬は赤い食べ物である家畜の肉を食べる。





豊富な草を利用し
五畜を飼って生活している。




モンゴルでは,
ヒツジの方が高級である。

  さて,わが国ではヒツジよりウシの肉が好まれる。
しかしモンゴルでは,ヒツジの方が高級食材だ。
そう言えば,「栄養」の「養」の字は「羊を食べる」と書く。
また,“美しい”の字は“羊が大きい”と書く。
さらには,「正義」の「義」は,“羊に我”と書く。
“羊”の文字が良い意味で使われていたことがわかる。

ところでモンゴルは,雨が少なく耕作に適した土地が1%しかない。
そのためか,遊牧民は野菜を口にしない。
「草は,家畜が食べるもの」と言う。 
栄養学的に問題ありそうだが,彼らは健康そのものである。





彼らは,頭から尻尾まで食べる
ビタミンは,血液に含まれる。
命を丸ごと食べるから,栄養充分だ
 遊牧民の知恵には,驚かされる。

  実は,この秘密。
食べ物にあるのだ。
1本のナイフで羊を殺し,皮を剥ぎ塩ゆでにしたものが最高のご馳走である。
彼らは,羊の頭の先から尻尾の先まで残さず食べる。
内臓を取り出し,腸管の中に血液を入れソーセージにする。
ビタミンやミネラルは,動物の血液に含まれている。
一つの命を丸ごと食べるから,必要な栄養はすべて満たされるのだ。

なるほど・・・・・。
遊牧民の暮らしの知恵には,驚かされる。
肉の一部分だけを食べ,残りは捨てるどこかの国とは,大違いだ。
このように,動物を丸ごと食べる食べ方を「一物全体食」と呼ぶ。
これが遊牧民の健康の源なのである。




  でも,ちょっと待てよ!

日本でも「一物全体」を食べているではないか・・・・。
そう! 賢明な読者には,もうおわかりだろう。
例えば,“イリコ”や“ちりめん”。
“ししゃも”も丸ごと食べる。
“干しエビ”だってそうではないか。
小魚は,「カルシウムが多く含まれるから・・・」
「歯に良いから・・・食べなさい」と言って子どもに勧める物ではない・・。
「一物全体食」だから,勧めるべき食べ物だったのだ。




日本でも「一物全体」を食べている
“イリコ”や“ちりめん”がそうだ。