おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学歯学部 小児歯科




 “歯垢”(しこう)という言葉は,ご存知のことだろう。
 英語では“プラーク”と言う。これが,むし歯や歯周病の原因だ。
 ところがこの言葉,専門用語であるため,なかなか覚えにくいし理解しづらい。
 特に,子どもに伝えることは,至難のワザである。
 そこで筆者は,歯垢のことを“むし歯菌のウンチ”と表現している。
 「〇〇ちゃんは,ゴハンを食べたらウンチをするでしょう。」
 「〇〇ちゃんが食べた甘いものを,今度は,口の中のむし歯菌(ミュータンス菌)が,食 べてウンチをする。」
 「だからこれは,“むし歯菌のウンチ”なのだ」と教えている。
 さらにむし歯菌は,“オシッコ”もする。これが“酸”で歯を溶しむし歯の穴が開く。
 このように言えば,小学校の低学年でも容易に理解することが出来る。

▲むし歯菌が砂糖を食べると
ウンチ(歯垢)とおしっこ
(酸)をする。このように
表現すれば、子供でもむし
歯の原因を理解できる。
	

 ついでにもう一つ。
 “歯垢”と“食べカス”が混同されがちだ。
 まず,台所にある残飯を捨てる三角コーナーを思い浮かべてみる。
 三角コナーを洗うとき,水道水をかけると残飯だけ流れる。しかし,表面には,ヌル ヌルしたものが残っている。
 これを取るためには,タワシやスポンジでこする必要がある。
 つまり食べカスは,ブクブクうがいで取れる。しかし,歯垢を取るには歯ブラシが必 要だ。
 子ども達に“わかりやすく”伝えることも歯科医の仕事の一つなのだ。



 さて,下の奥歯の内側を舌で舐(な)めていただきたい。
 ヌルヌル・ザラザラしていたら,そこには歯垢が付いている。
 歯垢は,“とり餅”のようにベタベタしている。
 この性質が,曲者(くせもの)なのだ。
 ベタベタしているので,むし歯菌同士もくっつき合う。
 だから,歯垢1グラム中には10の11〜12乗個もの細菌が存在すると言う。
 歯垢の中は,まさにむし歯菌の大都会と言える。
 そうすると“酸”は,さしづめ生活廃水にあたる。
 さらに歯垢は,歯にもベタベタとくっついている。
 歯垢と歯の表面の間では,多量の酸により歯が溶かされ続ける。
 これを取り除くのが,歯ブラシだ。

 ところで,歯科医院では,赤い液で歯垢を染め出す。これはとっても便利な方法だ。
 赤く染まった部分を磨けば口の中は,完全にきれいになる。
 しかし家庭では出来ない。
 そこで,簡単に出来る方法を紹介しよう。
 まず透明なコップを用意し,半分ほど水を入れる。
 そしてこの水で,歯ブラシを洗いながら歯を磨く。
 そうすると,水は濁ってくる。水が濁ると,新しい水に入れ換える。
 これを繰り返すと,水が濁らなくなるはずだ。
 この状態で口の中は,きれいになったと考えられる。
 是非,家庭でもお試しあれ。
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