おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学・医学部・歯学部附属病院 小児歯科




むし歯の原因について少し考えてみよう。
これから一般的なむし歯の原因論を紹介するが,ここには大きな間違いがある。
どこが間違っているだろうか?
頭をひねっていただきたい。
「むし歯は,口の中のミュータンス菌が,砂糖を食べて酸を出す。
この酸によって,歯が溶かされむし歯ができる。」

さてお分かりだろうか?
この質問を歯学部の学生にしても正解は10%に満たない。
どこが間違いなのだろう?

 

▲この図には大きな間違いがあるがどこだろう?

実は,この文章には“歯垢”の言葉が出てこない。
これが正しいとすると,子ども達にとって歯ブラシで除去するものは,
@ ミュータンス菌
A 砂糖
B 酸      のいずれかになる。
しかし歯ブラシで除去するのは歯垢ではないか。
歯垢が原因でむし歯や歯周病が発病する・・・だのに“歯垢”の言葉が見られない。
これは大きな誤りである。
小学生に話をする時には,まず歯垢が悪者であることを伝える必要があるのだ。
そして歯垢を作らないための方法として砂糖の話,歯垢を除去するために歯磨きの話を行っている。
このように整理したほうが,子ども達にはわかりやすい。



ところでミュータンス菌に,最高の条件を与えれば40分間に1回分裂し2個となる。
40分が一世代なのだ。
そして80分後に,再度分裂し4個となる。
さて歯垢1g・・・すなわち1円玉の重さには約10の11乗の細菌が存在する。
この菌数は,ヒトの糞便1gの約3倍の細菌数である。



▲むし歯の原因 ミュータンス菌


▲この歯垢をなめたら・・
糞便の3倍!


ここで,奥歯の内側を舌でなめていただきたい。
もし,ヌルヌル・ザラザラしていたら,糞便の3倍の菌をなめたことに相当するのだ。
このように話すと,子ども達に受ける。





ちょっとここで単純計算してみた。
1個のミュータンス菌が40分に一度分裂すると仮定すると,
1g(10の11乗)になるのに約24時間40分。
この調子で増加すると,1kgになるのに31時間。
そして,1tになるのに38時間。
さらにジャンボジェット機は180tだから,約43時間。
何と!世界最大級のタンカー(バティラス号 フランス)は,
全長400mで54万2,400トンであるから,50時間後に達成することになる。
これだけの細菌となると,顎がはずれるどころではない。


▲ミュータンス菌がジャンボジェットになるのは48時間。

でもどうして実際には起こらないのか?
これは単なる数字のマジクだ。
この理由。

それはミュータンスのエサである砂糖がそれだけ存在しないためである。
それだけ砂糖は悪者なのだ・・。 たった1個のミュータンス菌からでも,話はどんどん広げられる。



▲世界最大のタンカーの重量になるのに,
       50時間しかかからない・・・・。