おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学歯学部附属病院 小児歯科





▲乳歯のむし歯と永久歯のむし歯は正比例する。
 "乳歯は,むし歯になっても永久歯に萌え代わるから。"という言葉をよく聞く。
その理由を聞いてみた。
"乳歯は,小学校の頃には萌え代わる。しかし永久歯は,生涯使わなければならない。
本当にそうだろうか?と思い,乳歯と永久歯のむし歯の関係について調査した。
3歳で乳歯が9本以上むし歯のある子を追跡してみると,10年後には永久歯のむし歯の平均は約7本。
一方乳歯でむし歯のない子は,約3本となっていた。
乳歯のむし歯が多いと,永久歯のむし歯が約2倍のスピードで増え続ける。
この調子で60歳までむし歯が増えると仮定する。
むし歯のなかった子は,永久歯のむし歯27本となる。
一方,むし歯が多い子は,53本もむし歯ができる勘定だ。
ヒトの歯の数は28本。
これではワニ(は虫類)のように,歯がたくさん萌えないと間にあわない。
やはり乳歯のむし歯が多いと,永久歯でも多くなるのだ。
▲口の中は地球環境と同じ。
甘いお菓子は,1本の歯で食べているわけではない。
 これは放置された花壇を例にすれば,理解しやすい。
放置されて雑草が生い茂っている花壇に,花の苗を植えたらどうなるだろう?
肥料を与えても,雑草に取られてしまう。
太陽の光は,雑草に遮られて,届かないに違いない。
また雑草についている病害虫が,苗を脅かすだろう。
このような状態で,きれいな花が咲くとは思えない。
同じことが,むし歯だらけの子どもにも起こる。
乳歯のむし歯予防は,生涯にとって歯の健康の基本なのだ。
だから乳歯にむし歯が多いと,萌えたばかりの永久歯もすぐにむし歯になってしまう。
永久歯は,生涯使う大切な歯だ。
しかし乳歯の状態によって,永久歯が決まってしまう。
乳歯は,萌えている期間は短い。
しかし,乳歯こそ健全な永久歯を導く"親の歯"とも言えるのだ。
これが乳幼児期のオヤツの与え方と関係しているように思う。



▲乳歯で多くのむし歯があっても,
定期健診を受けることで永久歯のむし歯は,
減らすことができる。
 また乳歯は,一度に多数のむし歯ができるのが特徴だ。
これは地球環境を考えてみるとわかりやすい。
核の問題を例にとろう。
一旦,大きな核爆発が起これば,広い範囲の地域が汚染される。
わずかの期間に,地球の反対側まで影響を及ぼすだろう。
"宇宙船地球号"という言葉が示すように,地球は一つの"閉鎖系"なのだ。
地球の片隅で起こったことは,すぐに地球全体の問題となる。
口も同じ"閉鎖系"。
1本の歯がむし歯になることは,口の中全体が同じ環境と言える。
甘い食べものは,1本の歯で噛んでいるわけではない。
歯の治療をしても,最初むし歯ができた環境が変わらないと元の木阿弥になる。
むし歯が出来る環境こそが問題なのだ。


 
▲きれいな歯を手に入れるためにも
かかりつけ医は重要だ。
 それでは乳歯でむし歯が多いと,いくら治療しても健康な永久歯の獲得には,つながらないのだろうか?
先ほど,乳歯でむし歯が多かった子ども達。
治療が終わっても,定期的に歯のチェックに通ってもらう。
永久歯は,次から次に萌えて来るので,それに応じた歯の磨き方も必要だ。
また萌えた直後の歯は,軟らかいのでむし歯になりやすい。
フッ素を塗ることで,歯を硬くし,むし歯にならない丈夫な歯を作る。
これを繰り返すと10年。
乳歯でむし歯が多く,永久歯7本がむし歯に侵されているはずの子ども達。
これが10年後には,平均1.5本にとどまっていた。
歯のチェックを定期的に行なうことは,これほど効果がある。
そのためにも"かかりつけ医"を作ることが重要だ。