おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学・医学部・歯学部附属病院 小児歯科





▲どうして歯の矯正をしたのだろう?


北京オリンピックが無事に終了した。
今回もっとも活躍した選手の一人に,
男子100メートルで優勝したジャマイカのボルド選手がいる。
両手を広げ駆け抜けたタイムが9秒72。
人類史上最速タイムをたたき出したことは記憶に新しい。

また女子100メートルでも,ジャマイカ勢が独占した。
優勝したのは,ブレーザ選手。
ところが彼女を良く見ると歯の矯正装置が入っていた。
歯科医師の眼から見て,歯並びに問題が出る骨格ではなさそうなのに・・。
どうして歯の矯正をしたのだろうか?
矯正をすることで,それだけ成績がアップするものなのか?  




▲目を閉じるとまっすぐ歩けない


さて,ヒトの骨格は左右対称にできている。
どうしてだろう?
その理由を述べてみる。
広い公園でまっすぐに歩いてみる。
ところが,不思議なことに目を閉じて歩くと歩けない。
少し歩くと,いつの間にか左右に大きくずれているのだ。
目で目標物を捕らえているから,まっすぐに歩けることがわかる。
それでは,目を閉じるとどうして歩けないのか?
これは歯の噛み合わせが関係している。

例えば,目を閉じて顎を右側に寄せて歩く。
そうするといつのまにか,右に大きく傾いている。
反対の場合でも同様である。
だから歯や骨格は左右対称なのである。
そう言えば,水泳でも背泳の選手は天井のどこかを基準にして泳ぐ。
そうしないと,まっすぐ泳げないで曲がってしまうのだ。






話は戻って,ここで大胆な仮説をたててみた。
さて100m走で,第1歩が5度ずれてダッシュすると仮定する。
そうすると計算上では,100m40cm。
つまりその選手は,40cm余分に走らなければならない。
この調子で10度ずれると1.6m,30度では15.5mとなる。
計算は,三角関数のコサインの逆数を求めればよい。

さらに100mを10秒で走る選手であれば,5度ずれれば10秒04。
10度では10秒16,30度では11秒55もかかってしまう計算になる。
これでは試合に勝てない。
身体のバランスの悪さが,記録に影響することがわかる。
そこで噛みあわせを調整する必要がある。


▲スタートが5度ずれると・・・・
40cm余分に走る計算になる。


これは試験勉強を考えればわかりやすい。
例えば平均60点を目指すのであれば,一夜漬けでも取れるだろう。
しかし平均70点を取ろうと思うと,日ごろからよく勉強する必要がある。
それでは常に80点をキープするにはどうだろう?
70点の数倍の勉強量が必要だ。
さらに90点以上では,どうだろう?  
1点アップするための努力は,生半可なものではない。



▲オリンピックでは,
1点アップするための努力は,生半可なものではない。

オリンピック競技では,常に人間の可能性の限界に挑戦する。
記録をアップさせるすべての要因を考え試合に臨む。
アメリカでは30年以上前から,
試合の前には歯の噛みあわせを調整していたと言う。
ジャマイカのブレーザ選手にとっても,
一つの可能性が歯の矯正だったに違いない。




▲ブレーザ選手は10秒の壁を破るために
矯正したのではあるまいか?