歯のふしぎ博物館


歯のふしぎ博物館 

館長 岡崎好秀

(岡山大学病院 小児歯科)





▲シギは食性に応じて
   さまざまなクチバシを持つ

 “シギ”と“サギ”と言えば,干潟など水辺に住むトリである。
名前は似ているが,“シギ”はチドリの仲間であり
“サギ”はコウノトリの仲間だ。
シギは,体の割に長めのクチバシを器用に使いエサを探す。
そして種類によって,いろいろな形のクチバシを持つ。
真っすぐがあれば,上や下に反ったもの,さらにはヘラのようなものまである。
真っすぐなクチバシを泥の穴に突っ込み,
ゴカイや貝をはさんで引っ張り出す。
上に反ったクチバシは水面の,下に反ったものは深い穴をほじくってエサを探す。
クチバシは,獲物によって変化するのだ。




▲シギの目の前には
   アイラインが入っている

  さて,クチバシの長いシギをよく眺めると、目の前にアイラインが入っている。
どうしてトリにはアイラインがあるのだろう?
さて,この理由が面白い!
ヒトの目は、顔の前方にあるので立体視が可能である。
しかし弱い動物は、外敵に襲われないよう視野を広くする必要がある。
そこで,襲われる立場にある動物は目が顔の側方にあるのだ。
しかし,これでは立体視ができずエサを捕るのが難しい。
しかもクチバシが長ければ,なおさらだ。







▲眼の縁の過眼線の延長に
      クチバシの先がある

そこでアイラインである過眼線(かがんせん)が登場する。
トリの目からこの線をたどって行くと,ちょうどクチバシの先に達する。
両方の線が交わったところがロックオン状態。
そこで,口を開ければエサを捕ることができる。
生物界は,かくも巧妙にできている。
それでは,クチバシが上や下に反ったシギはどうだろう?

そう!
反っていても、過眼線の延長上にクチバシの先がある。
 





 

▲サギの過眼線の延長はと
クチバシの先と一致しない
ヒントは水中の魚を食べることにある

 さてサギは,コウノトリの仲間であり大きな翼で飛翔する。
クチバシが長く,水中の小魚をエサにする。
ところが、“サギ”は”詐欺”なのである。
サギは過眼線の延長上には,クチバシの先がこない。
線の延長より下方に先があるのだ。
どうしてだろう?
ヒントは,“水中の魚を食べる。”にある。

そう!
賢明な読者はお気づきのことと思う。
水の屈折率が影響するのだ。
サギが見ているのは虚像であり,実際にはその手前に魚がいる。
これがあらかじめ計算され,過眼線の延長とクチバシがずれている
自然の巧妙さには,目をみはるばかりである。