歯のふしぎ博物館


歯のふしぎ博物館 

館長 岡崎好秀

(岡山大学病院 小児歯科)





▲口をポカ〜ンと開け
口呼吸している子どもが目につく


最近,口をポカ〜ンと開け口呼吸している子どもが目につく。
上口唇が凸型をしたり,口唇が厚く前歯が見えている。
このような場合,口呼吸をしている可能性が高い。




▲口を閉じる力の弱い
 児童は視力が低かった。

以前,3歳から18歳まで年齢別に口唇を閉じる力について調べた。
ついでに某小学校で5・6年生の視力との関係についても調べてみた。
その結果,驚くことに口唇を閉じる力は視力と関係していたのである。
閉じる力の強い1/4の児童平均視力は1.11に対し,
弱い1/4では0.62とその差は0.5もあった。
この結果を見た時,きっと間違いだと思った。
しかし他の学校で行っても,類似した結果になった。



▲グミを5分噛むと
噛む筋肉の温度が上昇していた。

 さてこの結果。
偶然なのか,本当なのか?
そんな“何故?”を考えると面白い。

さて10年ほど前,サーモグラフィーでグミを噛む前後の顔の表面温度を測った。
筋肉が動き血液の循環が良くなれば,
青色から赤色に変化し温度が上昇したことがわかる。
横顔を見ると,口唇や噛む時に働く“咬筋”などの温度が上昇していた。
次に前から見ても,口唇の周りや首の部分の温度が上昇している。
噛むことにより,これらの部分が活性化されていることがわかる。




▲ところが眼の周囲の温度まで
上昇した。これは間違いだと思った。

ところがだ・・・・。
不思議なことに眼の周囲の温度も上昇していた!
“眼の温度まで上がるわけがない。きっとこれは何かの間違いだ!”
と思い研究はそこで中断した。

でも,口唇を閉じる力とサーモグラフィーの結果を考え合わせると,
この結果はあながち間違いだとは言えなくなった。



▲食べ物を食べる時には
口唇の周りの筋肉も使っている。

実は,サーモグラフィーの研究。
グミを前歯で咬んだ場合と臼歯で噛んだ場合の二通りの実験を行った。
その結果,なんと前歯で咬んだ場合の方が温度の上昇が大きかったのだ。

食べ物は臼歯で噛むと考えがちだが,実は前歯も使っている。
食べる時には,まず前歯で咬み切った後,臼歯で噛む。
さらに食べ物をこぼさないように,口唇周囲の筋肉も使う。
この器械は皮膚の表面温度を測るから,前歯の上昇率が高かったのだ。

▲口唇の筋肉は,頬や眼の周囲の
筋肉ともつながっている。
だから前歯でかじることは
視力の調節と関係するのではないか?

 そのような眼で,資料を探しているとおもしろい写真がでてきた。
これは,サルの授乳のシーン。
顔のシワが深いので顔の表情を作る筋肉がよくわかる。
授乳するとき,口唇の周りのみならず,頬の筋肉まで引かれている。
さらにその延長上には,眼の周囲の筋肉が連なっている。
授乳は,口唇だけではなく,顔の表情を作る筋すべてが働くものなのだ。
そう言えば,前歯でかじる時には無意識に眼も閉じている。
ところが最近の食べ物,食べやすいように小さく・小さく切って与えている。
だから前歯で咬み切る必要がない。
口呼吸の増加は,口唇を閉じる機能が低下しているのではないか?
だから口唇を閉じる力は,眼の調節機能に影響している可能性が考えられるのだ。