おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学 医学部歯学部 附属病院 小児歯科





遥かなる
宇宙空間への旅立ち。

  1957年,旧ソ連がスプトーニク一号を打ち上げた時から
人類の宇宙開発の歴史は始ま った。

それから約50年・・。現在では毎年のように
日本人宇宙飛行士が、スペースシャト ルに搭乗し宇宙へ飛び立っている。
今回、若田宇宙飛行士が、国際宇宙ステーションの計画のため飛び立った。
遥か宇宙の彼方への旅。想像するだけでロマンがかきたてられる。
さて宇宙飛行士は、むし歯があるとなれないといわれている。
どうしてだろうか?

宇宙では、むし歯があると歯が痛くなりやすいのだ。
激痛に襲われたらならば、任務どころではあるまい。
そもそも歯が痛くなる理由は、むし歯が進み神経の炎症によってガスが出る。
この圧力によって痛みを感じる。
これは、火山の噴火にたとえることができる。
すなわちマグマの圧力が高まると,地質が薄いところに噴火する。
むし歯で穴があいた部分が噴火口なのだ。
歯の治療は、地質の弱いところを補強することに他ならない。
宇宙飛行士の毛利衛氏は、小さなむし歯が4本あり治療されたそうだ。
どうやら小さなむし歯であれば大丈夫なようだ。


若田宇宙飛行士が、
国際宇宙ステーション
計画のため飛び立った。




宇宙服のなかでは
気圧が0.3まで低下する。

  宇宙で歯が痛くなる理由として、気圧が低くなると相対的に歯の内部の圧力が高くなる。
空気は5000メートル上がるごとに、半分になる。
ちなみに宇宙服の中は、0,3気圧。
だから歯が痛む。
これは、飛行機でも同じだ。
飛行中は、約20%気圧が低下する。
その影響で、スナック菓子の袋が膨れたり,封を開けたシャンプーも漏れだす。
だからパイロットやスチワーデスにとって、歯の治療は重要なのだ。
航空会社の広報室に問い合わせてみた。
地上でわずかな痛みであれば、上空ではさらに痛くなる。
だから国際線など長時間の飛行においては、かなりの苦痛となる。
ひどい時は、乗務員の交代もありえるそうだ。


ロシア宇宙船の救急医療セット
歯を抜く道具まで入っている

  それでは、もし宇宙で、親知らずでも痛みだしたらどうするのだろう?
まず痛み止めの薬を飲む。
それでも効かなかったら、他の宇宙飛行士が歯を抜くそうだ。
そのため宇宙飛行士は、歯を抜く訓練までしているのだ。
では総入れ歯なら宇宙飛行士になれるだろうか?
答えは、ノーである。
NASAの規定によると、もし入れ歯が壊れた場合、
普通食を噛み、明確に発音できるこ とが必要なのだ。
いつの日にか、誰もが宇宙旅行を楽しめる時代が訪れるだろう。
その時まで、困らない歯を維持したいものだ。



  元軍医から聞いた飛行兵と歯痛の話。
片道だけの燃料を積んで飛び立った特攻隊機。
ある隊員が、歯痛のため基地へ引き返してきた。
治療材料にもこと欠いていた時代であった
歯を抜いて再び飛び立っていったとのこと。
気の毒に。戦争とは、かくも残酷なものである。

特攻隊も歯の痛みには
耐えられず引き返してきたという





<写真提供  若居 亘先生  NASA>