おもしろ歯学


岡崎好秀

岡山大学・医学部・歯学部附属病院 小児歯科




先日,3歳の重度脳性マヒの子どもの食べる訓練を行おうとしたら,
急に嘔吐した。
保護者に尋ねると,1時間ほど前に鼻から栄養を注入したとのこと。
ところが・・・・だ。

白い嘔吐物は,まったく酸っぱい臭いがしなかった。

臭いがしないということは,何を意味しているのか?
そう!胃液が出ていない。
それでは,どうして胃液が出ないのか?



 

▲鼻から栄養を入れている子どもに
食べる訓練を行おうとしたら急に嘔吐した。
しかし,まったく”におい”がしない。


そもそも,栄養剤を胃に注入するだけで,
消化吸収が行われるものだろうか?
これを生物学的に考えると,少々無理があるように思う。

食物は,口から入り,胃や腸で消化吸収され肛門から排泄される。
この一連の流れには順番がある。
歯で食物を咀嚼した後,
舌の先が前歯の裏にあたって嚥下の運動が始まる。
これが消化器のぜんどう運動の始まりだ。
ミミズもぜんどう運動によって,前に進むが,
体の真ん中から動き出すなんて見たことがない。






▲ミミズだって”ぜんどう運動”
により前に進む


▲バットでボールを打ったら,
1塁を廻って2塁へ向う。

野球だってそうだ。
バットでボールを打ったら,1塁を廻って2塁へ向う。
最初から,2塁に走るとちょっとおかしい。

腸管のぜんどう運動も,舌から始まると考えたほうが理屈に合う。
舌が動くことで,食道が動き,胃が動き,
小腸が動き,大腸が動く。
さらに,唾液が分泌されることで,
胃液を始めとした消化液が次々に分泌される。
そしてぜんどう運動で,食物が下部の消化管に送り込まれながら・・・・,
さまざまな消化液とかき混ぜられながら・・・
消化が進むのだ。





面白い研究がある。
出生体重1500g以下の経管栄養児に,おしゃぶりを与えると,
体重増加が著しかった。
まさに口が動くことで,すべての消化器官が活性化されることがわかる。
口は出発点なのだ。
経管栄養や胃瘻を行っているから,
口は関係にないのではなく,
行っているからこそ
口を動かせるアプローチが必要なのである。

視点を変えるだけで,物事の本質が見えてくる。





▲出生体重1500g以下の経管栄養児に,
おしゃぶりを与えたら体重増加が著しい。