謎解き口腔機能学
― すべては口から始まった! ―



 Monday, May 19, 2003
 
 まえがき 謎解き口腔機能論
なぜ、謎解きか?それは、筆者の性格に起因します。
筆者は、学生時代から“これはこうだから,こう覚えておきなさい。”という勉強は大の苦手でした。
項目の羅列を単純に覚えることができる人は,筆者から見れば天才としか思えません。
一方、“何故?”ということを考える勉強が好きでした。
先生方にとっては,さぞ扱いにくい学生だったことでしょう。
もちろん学生時代の勉強は,知識を備えることも必要です。
国家試験に合格することは,多くの患者さんを診ていく上で最低必要源の知識を身につけることの証です。
合格することは,歯科医師としてのスタートラインに立つことに他なりません。
でも,社会に出てからの勉強は,少し意味が違います。
一つの答えを求めるのではなく,いかに違う答えを見つけるか?そして,その答えを導き出していくプロセスを楽しむ。
同時に臨床に役立てる。そんな勉強法もあるように思います。 さて、この本を手にとられた方に,まずお願いがあります。
この本を読まれる前には,まず唾(ルビ:ツバ)を口の中にためていただき,眉(マユ)に唾をたくさんつけながらご覧下さい。
本書は,著者なりに口腔機能について勉強してきたことですが,都合の良い解釈や思い込みが,かなり多いと思います。
そこは,批判的にお読みください。
ところで現在,摂食・嚥下や口腔ケアに対する新刊書や講演会が数多くなされています。
口腔機能の発達や摂食機能療法に関しては、昭和大学歯学部口腔衛生学講座の先生方を中心として多くの研究や実践がなされています。
また,本書の読者の方も,口腔機能や口腔ケアに関しては何度も勉強され,よくご存じだと思いますので、いまさら筆者が述べる余地はありません。
しかし,口腔機能に関しての疑問点は山ほどあります。
例えば離乳期前期には,舌が前後運動をします。
そして中期には上下運動。後期には左右運動が可能になります。
どうして舌運動は,この順番で発達していくのでしょうか?
上下運動から左右運動に変わり,最後に前後運動になってはダメなのでしょうか?
不思議でしかたありません。
これらの疑問に答えられますか?
また,「患者さんからヒトの歯もサメのように何度も萌え代わればよいのに・・」と言われた時に,どう答えますか?
その疑問に答えられないようにようでは,何のための歯科医療でしょうか?歯を残す意味は何なのでしょうか?
また何故赤ちゃんに吸綴反射は存在するのでしょう?
“何故,運動するときに,一瞬息を止めるのでしょうか?“
”何故ヒトの顎は縦に開くのに,カニの顎は横に開くのでしょうか?“
…などなど口の中は,ふしぎ・ふしぎな謎で満ち溢れています。
これらの素朴な疑問にどれだけ答えることができるでしょうか?
冒頭で申しましたように,筆者は何故か?を考えることが好きです。
わからないことがあれば,まず人に聞きます。それでもダメな場合は本を買って調べます。
それでもわからなければ講演会などで専門家に質問をします。それでも納得できなければ,自分の頭で考えるしかありません。
そして,その疑問をいつも頭の隅に置いて,ヒントはないかと探し続けてきました。
本書では,筆者の雑学(本人は,博学のつもり)や動物学から、あるいは魚類からヒトに至る進化の過程から、
さらにはこれまで診てきた多くの障害児・者から,筆者なりに推論を交えながら,これらの謎について筆者なりに解き明かしたものをまとめてみました。
だからといって、鵜呑みにしないで、まず唾(ルビ:ツバ)を口の中にためていただき,眉(マユ)に唾をたくさんつけながらご覧下さい。
それこそ、「なぜか?」と考えながら読んでいただきたいのです。
いつか貴方と出合う機会がありましたら,こんな発想もあるのだよということを,是非お教え願えればと思っています。

目次
 はじめに 謎解き口腔機能学
   本書を読むに当たってのお願い

 序章 歯は何のために萌えるのか?
   2つのレベルアップ
   乳歯齲蝕の洪水といわれた時代
   障害児施設歯科での予防管理とDMF歯数
   過敏との出会い
   口腔機能と齲蝕
   発達期のアプローチ
   早期訓練の重要性
   食べる運動と言葉の発達
   2通りの治療法
   2つの“なぜ?”
   進化の歴史と口腔機能
   原核細胞と真核細胞
   有酸素運動と無酸素運動
   細菌とカビの違い
   細菌とカビの違い
   進化の歴史から考えるとヒトの寿命は80cm

 第1章 1本の歯から
   すべては1本の歯から
   アキちゃんと恐竜少年ケンちゃん
   歯磨き恐竜ティラノサウルス
   1本の歯からのウラ話
   “キャビティ・トリートメント”と“カリエス・トリートメント”

 第2章 恐竜の消化の“ヒミツ”とは?
   肉食恐竜と草食恐竜の歯の違いとは?
   前歯しかなかった恐竜
   恐竜の消化のヒミツ
   恐竜の消化の“ヒミツ”ウラ話
   コケ植物とシダ植物
   裸子植物と被子植物
   柿の実は何の役に立つの?
   胃石と砂嚢

 第3章 どうしてヒトの歯は1回しか萌え代わらないの?
   何回も萌え代わる歯
   手の代わりとしての歯
   どうしてヒトは1回しか萌え代わらないの? ウラ話
   K戦略とr戦略
   歯の起源
   歯根膜の意味
   哺乳類と爬虫類の歯の違い

 第4章 イチロー選手から摂食訓練を考える
   イチロー選手の高打率のヒミツ
   歯科検診時の呼吸・歯磨き時の呼吸
   患者さんにとって楽な口腔ケアとは?
   口腔ケアの最初のステップは?
   口腔ケアと摂食訓練の類似点
   言葉の前に食べる訓練
   咬反射を歯ブラシのタイミングで除去する

 第5章 口は最大の感覚器官
   原始反射とは?
   神経発達は中枢から末梢へ進む
   ペンフィールドの図の運動野と感覚野の違い
   過敏について
   触覚過敏と心理的拒否
   口唇閉鎖について
   サカナの口腔機能

 第6章 なぜ歯は下顎の前歯から萌えるのだろう?
   寝たきりからの生還
   下顎前歯が先に萌出する理由
   歯の萌出と舌運動
   顔面表情筋の発達
   なぜ甘い味は舌尖で感じるか?

 第7章 ノドから手が出る話
   顔面表情筋の働き
   舌も寝たきりに?
   口唇が内翻していると
   舌と口唇は親分・子分の関係
   奈良の大仏さま体操って?
   舌で舐めると健康に
   体の中で最後まで動く筋肉は?
   個体発生は系統発生を繰り返す
   前口動物対後口動物
   ヘモグロビンとヘモシアニン
   魚類から両生類への進化と口腔機能
   舌の神経支配が複雑な理由
   ノドから手が出る話
   筋肉は収縮することで動くのに?
   おまけの話トリの舌
   動かない舌は、魚類まで退化した舌

 第8章 口腔機能と息こらえ
   軟骨魚類と硬骨魚類
   両生類と爬虫類の呼吸
   浸透圧の話
   1つまみの塩で救命処置
   腹式呼吸と胸式呼吸
   泣きの服装3点セット
   吐いて始まり、吸って終わる
   声帯と息こらえ
   息こらえと運動
   咬合と平衡機能
   顎位と姿勢
   ハイハイと前歯部の外傷
   耳小骨は顎関節の骨だった
   骨伝導で音を聞く
   脳は噛むむ音を聞いている

 第9章 口腔機能と発音機能
   爬虫類は首が動く
   声帯はギターの弦・咽頭は胴
   「マンマ」は世界共通語
   早すぎた二足歩行
   嚥下の確認事項
   立体交差と交差点
   喉頭蓋と誤嚥
   哺乳類の鳴き声
   阿吽(ア・ウン)の呼吸
   「ほんにちは」は「こんにちは」?
   パラトグラム法
   「ア〜」(喃語)の長さを診る
   過蓋咬合と発音機能

 第10章 鼻呼吸と口呼吸
   鼻の進化と役割
   鼻は肺の防御基地
   タバコと税収
   どうして胃酸が出るのだろう?
   免疫機能と口の関わり
   満腹感と満足感
   口腔・結腸反射?
   鼻は加湿器・加温器
   あなたのカゼは喉から? 鼻から?
   口呼吸性歯肉炎
   口呼吸と閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
   口輪筋の発達と進化
   おしゃぶり考

 おわりに 執筆を終えて、思うこと
   ちえちゃんとの思い出から