2008年活動記録
――08年「第18回モンゴル歯科探検隊」活動報告書――
[実施した期間];2008年9月08日~9月14日
[参加者数];計10名
岡大歯学部3年生4人、看護大学生2人、開業歯科医2名、歯科衛生士1名、黒田
[活動報告];
モンゴルは今建築ラッシュで、バブルの真っ只中です。わずか2年程の間に不動産(土地やアパート)は3、4倍に高騰し、成金達の投機対象になって、一般の人達が首都で住居を手に入れることはますます難しくなっています。しかも、建築会社は中国、韓国、日本等外国資本で、労働者として働くモンゴル人はひどい低賃金で雇われているそうです。国民の経済格差はどんどんと広がり、ガソリン代も1リットルが1685トグリク(約165円)と他の物価水準からみても高すぎるようです。エネレルスタッフを始め、国民の生活はどんどん厳しくなって、海外へ出稼ぎに行く人々が増え続けているようです。エネレルにいた看護士も、今岐阜県の工場で働いています。その給料は月12万円程で、これはエネレルで働く看護士の6倍を超えます。
このような経済状況を考慮しながら、エネレルのあり方、日本との交流のあり方を探っていかなければならないと悩んでいます。
今年の活動内容は;
① 遊牧民への訪問歯科治療、保健予防活動、健康チェック;ウランバートルから約70kmに住む遊牧民と周辺の金鉱山労働者達を対象に活動を行いました。ここでの活動は、3回目になります。エネレルの若いスタッフや日本人参加者と共に、救急車とマイクロバスで訪れました。行った活動は、健康チェック〈身長、体重、体脂肪率、血圧、尿チェック、尿塩分チェック〉と結果報告・保健指導、歯科検診、歯科治療、歯石除去です。
この活動は、エネレルが診療室で歯科治療を行うだけの歯科診療所ではなく、多くのモンゴル国民の健康を守る公衆衛生活動も行う診療所であることを、内外に知ってもらうための活動でもあります。訪問歯科治療や予防活動にとどまらず、全身の健康チェックも行うことで、口腔内はもちろん全身の健康づくりを目指しています。エネレルの若いスタッフにはいい経験になると思っていますが、将来は地方の歯科医師とも協力した活動にしていけたらと願っています。
② 孤児院での歯科保健予防活動;いつも行っている孤児院で、日本の学生が作った虫歯予防の人形劇をエネレルスタッフと日本学生が一緒に行い、その後歯ブラシを1本ずつプレゼントし歯磨き指導を行いました。今年は集団指導でも日本人学生が担当してくれ、よい経験になったと思います。今は、孤児院では保健予防活動だけを行っていますが、以前のように訪問歯科治療もエネレルスタッフと一緒に行って行きたいと考えています。また、孤児院の職員にも働きかける活動を行っていきたいと考えています。
③ 障害者施設での訪問歯科治療、歯磨き指導;ここも毎回モンゴルに行くたびに訪問して
いる施設(18歳までの知的障害者入所施設)で、今回も寝かせての歯磨き介助、歯石除去、救急車の中での歯科治療を行いました。日本人学生達にも事前学習を行って、実際に介助磨きを体験してもらいました。7月に検診を行った新しい入所者も含めて、口腔内の汚れや歯肉炎は7月の時と比べて顕著な改善がみられ、継続的な活動の大切さが再認されました。
④ 両国歯科学生交流;今年は日本歯科学生4人、モンゴル側歯科学生、これにエネレルスタッフが参加し、日本側学生からのプレゼンテーション、日本から参加の歯科医師2人と歯科衛生士による3題のセミナーを行いました。そのあと、学生達だけで交流を行い、活発な意見交換が行われました。これまでも両国の歯科学生交流を行っていますが、今後は公衆衛生活動にも参加してもらえるよう医科大学や私立大学との連絡を取っていきたいと考えています。
日本学生からのプレゼンテーション モンゴル国立医科大学歯学部の学園祭に参加
⑤ エネレル診療室での歯科診療助言;今回もイチン先生の患者さんを中心に、診療サイドでカンファレンスを行いました。矯正、歯冠補綴(ブリッジ)、過剰歯、義歯等々の患者さんでした。中には義歯による舌潰瘍をクレームとする患者の診断と説明や、他院による前歯部ブリッジのクレームを訴える患者もいて、新しい治療技術を急速に取り入れているモンゴル歯科医療事情の問題点が多発する恐れを感じました。
エネレル歯科診療所前で 小児歯科診療室 歯ブラシ植毛機械と技術者
⑥ エネレルスタッフへのセミナー;「幼若永久歯の治療と予防の対応」と、学生交流と一緒に行ったセミナー3題と学生によるプレゼンテーション
⑦ モンゴル国初主催の国際障害者歯科フォーラムへの参加;医科大学主催の国際障害者歯科フォーラムに参加し、教育講演の形で1時間20分黒田とセンべ先生(エネレル歯科医師)が教育講演の形で発表してきました。内容は、「日本における障害者歯科治療の実際と障害者施設での保健予防活動、18年間にわたる日本・モンゴル歯科医療交流、エネレル歯科によるモンゴルの障害者施設での保健予防活動の取り組み」でした。今回のフォーラムでは、韓国、台湾、日本からの参加・発表がありました。今年医科大学の中に障害者歯科診療室が開設されたところですが、そこの担当医は韓国で3か月研修を受けただけで、まだ実際には障害者診療を行っていないというのが現状でした。日本でもまだまだ障害者の歯科受診は一般化されておらず、モンゴルでの今後の取り組みに期待されます。
参加者感想文まとめ:「モンゴル歯科医療交流活動」アンケート
①参加動機は?
「今回はただの観光では決して得られない経験ができると考えて参加を希望しました。日本以外の国の歯科医療はどのようなものかということにも興味がありました。」
「自分が歯科医師になると、考え方や視点が固定されてしまうような気がしています。そうなる前に、今、いろいろな考え方ができる時にいろいろな歯科の現場を見てみたいと思いました。」
「日本の小児歯科医療は多くの国(とくにアメリカ)から多くの知識・情報・物的援助を受け、現在に至ってきました。これからはモンゴルの子どもたちに物心両面から、自分の出来る範囲で、“恩返し”をしていきたいと思っています。」
②遊牧民へ訪問歯科診療・歯科保健予防活動についての感想
「草原のど真ん中の何もないところから診療の準備をするための工夫の必要性を感じました。例えば身長を一つ測るにしても、メジャーをどのように設置するのか考えたり…」
「青空の下で診療する場面を初めて見ました。青空の下で初めて身体測定をしました。日本で当たり前と思われていることが当たり前ではなく、そこには自分の知らない世界が広がっていて驚きばかりでした。」
「大草原の中でのタービンの音はきっと一生忘れません。」
「当初から目的であった、『モンゴル人によるモンゴル人の為の歯科保健活動』を支援するという観念は着実に前進しています。救急車を改装しての歯科診療車は草原のどんな場所へも出動でき、その機能は十二分に発揮しています。なんの情報手段もない中で、基地にしたゲルにいつの間にか、40名弱の遊牧民が集まってこられたのにびっくりしました。」
「歯科医師になってからまた戻ってきたいです。今度は診療のお手伝いをしたり治療したり、実際に口の中をのぞいてみたいです。そして口の中の環境がどのように変わっていくのか見てみたいです。」
③障害者施設,孤児院での歯科保健予防活動についての感想
「無理やりではなくしっかりと歯を磨いてあげる難しさを感じました。歯磨きは怖くないよと自分からお口を開けてくれた子や泣いて尿をもらしてしまった子など歯の検診に対するこどもの受け止め方はさまざまでした。尿をもらして暴れてしまった子を膝に乗せ、『痛くないよ~』と何度も話しかけながら徳永先生が歯の写真をとるのを補助したときに、苦労した分だけ初めよりずっとその子を身近に感じていることに気がつきました。歯磨きが終わり涙目になっているのを見たとき『よくがんばったね』と頭を何度もなでていました。接する回数が増えると障害者の子たちがかわいいと思えるようになってくるとフォーラムで先生がおっしゃっていましたが、少しその気持ちがわかった気がします。今回は初めて学生のわたしたちに障害者のこどもたちの歯磨きをさせていただけたということを聞いて大変貴重な経験を積ませていただいたと大変感謝しました。」
「障害者施設にしても孤児院にしても子供たちはかわいいです。ジェスチャーで『治療が嫌だ』と伝えようとする子、『早く歯みがきして』と言わんばかりに膝の上に横になる子。言葉が通じなくても目を見て『こうやるの?』と訴えかけてくる子。いろんな子がいて悲しそうだったり楽しそうだったりするけれども、一生懸命我慢したり、一生懸命歯磨きしてくれました。どんなに小さなことでも一生懸命取り組む姿は素敵でした。私も見習わなければならないことです。」
「治療困難な障害者・児たちの健康管理は、的確なブラッシングと間食(甘食)指導に尽きると、ますます感じました。」
「孤児院では人形劇と、歯磨き指導をしました。人形劇はモンゴル語と合わせて人形を動かすのは大変でしたが、とても楽しかったです。その後の歯磨き指導は子供たちの間に入って行いました。こんにちは、さようならの歯磨きの持ち方をするたびに子供たちが見せてくれるのがかわいくて、うれしかったです。」
④日本&モンゴル両国歯科学生の交流会・セミナーについての感想
「プレゼンの資料を四人で作るところからよく疑問にあがっていたのが、モンゴルの歯科学生さんはどのようなことをどこまで知っているのだろうかということでした。交流会では、やはり入学金や授業料など諸費用のことについて意見が集中しました。モンゴルの大学の入学金は日本の四分の一ほどですが、年所得を考えるとモンゴルの方がエンゲル係数ならぬ入学金係数は高いようです。他に日本の人はどうしてそんなに長生きなのかということも質問されました。日本で最近話題になっているメタボリックやその検診の話に5年生の学生さんが大変興味を示していました。他は歯科に関係のないことですが、モンゴルのイメージと日本のイメージをお互いに暴露(!?)し合いました。モンゴルの学生さんの間では日本のイメージは高いビル群だそうで、日本が島国だからか温暖化現象で海抜があがり土地が小さくなっているのではないかと質問されたことにはこちらも驚きました。皆さん早い時期から矯正、口腔外科などどの分野に向かうか道をしっかりと定めていたのでその目的意識の高さに触発されました。」
「いかに自分が授業でのプレゼンテーションをおろそかにしてきたかが思い知らされました。自分が理解していなければ人に伝えることはできないと思います。今回の課題に対する自分の理解が浅く、練習不足だったためにうまく伝わらなかったのではないかと思います。」
⑤医科大学での障害者フォーラムに参加しての感想
「黒田先生のお話は学校の講義として一度受けていますが、実際活動に参加する前と後では理解の仕方が違いました。肌で直接体験することの大切さがわかりました。個人的に感じたことですが、やはり映像の大切さを感じました。言葉が通じにくいところでも映像は何かしら訴える力があり、何より伝わりやすさを感じました。フォーラムの独特の雰囲気にも触れられたことは大変貴重な経験だと思います。また今回は、偶然にも医科大学歯学部の第一回の学祭を見学できて大変ラッキーだなと思いました。途中で売り子の学生さんに尋ねてみると、フォーラムのある二日間ではなく、その日だけだということでなおさら幸運を感じました。中には日本語を話せる学生さんや、日本に留学したいと言っていた学生さんもいたようで、親日本的なのがとてもうれしかったです。また歯磨き粉が売られていたりとサークルでの催しもの中心の日本の学祭との違いも面白かったです。」
⑥その他,感じたこと,気づいたこと何でも結構です。お書きください!
「先生方が今回の探検隊で昨年よりもさらにいろいろとわたしたち学生にチャンスを与えてくださったことに大変感謝しています。こちらがエネレルの方に面倒を見ていただいたり学ばせていただいたことばかりで、ほんの少しでもお役にたてれたことがあればよかったなあと思います。この探検隊への参加を決めたときはただ観光では得られない体験ができると軽く考えていました。しかし、決してそれだけではなかったです。たった七日間のことなのにその間に想像していた以上の出会いに恵まれて、歯科保健活動の参加体験以上のものを得ることができました。とても有意義な時間を過ごさせていただきました。これから今回の経験を生かせるようさらに勉強して実力をつけ、もっと歯科の世界でお役に立てるようになりたいと思いました。」
「今回の活動で出会った方々はとても魅力的な人ばかりでした。出会えて良かったと心から思える人ばかりでした。自分の仕事に、自分のできることに一生懸命な姿はとてもかっこよかったです。いつか自分も誰かにそう思われるような人間になりたいと思います。」
「モンゴルに来てよかったと一番思ったのは広大な草原の真ん中で360度、ずっと遠くまで見渡したときです。こんなに広くて自然のままの場所はほかにはなかなかないと思います。そんな場所で歯科医療活動に参加できたことは本当にいい経験になりました。そして歯科探検隊に参加した先生や学生のみんなと一緒にいろいろな経験ができ、いろいろな話を聞けたことが何より嬉しかったです。」
「食事は10年前とは雲泥の差ほど変わってしまいました。街のあちらこちらで見られたモンゴル料理の普通の店は消えて、我々の国で食べているいろんな国の料理(韓国・ロシア・中国・イタリア・タイ・中国)が溢れています。モンゴルの子どもたちにはその環境の変化をもろに受けています。甘いものが氾濫し、むし歯だらけに。硬いひつじの肉を敬遠し、ハンバーガーを好む結果が歯並びの悪さに繋がっていっているようです。日本の二の轍を踏まないようにしてほしいものです。みんなでがんばりましょう。」
★★モンゴルとの医療交流活動への参加者募集★★
2009年度もモンゴルとの医療交流活動を計画しています。予定では9月5日(土)~9月12日(土)
の日程です。今年はモンゴルの歯科診療所「エネレル」15周年式典や例年の活動も計画しており、多くの方のご参加を募集しております。
連絡は、黒田耕平(E-mail;hpdqm355@yahoo.co.jp)まで。
締め切りは5月末です。
神戸医療生協 生協なでしこ歯科 黒田耕平
(連絡先);〒651-2109 兵庫県神戸市西区前開南町1丁目2-25
TEL.078-978-6480 FAX.078-978-6056